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富山地方裁判所 昭和59年(行ウ)1号 判決 1985年8月30日

原告 山本明義

右訴訟代理人弁護士 小森武介

被告 川辺俊雄

<ほか一名>

右被告ら訴訟代理人弁護士 掘家嘉郎

右訴訟復代理人弁護士 石津廣司

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告川辺は富山県市町村職員退職手当組合に対し、金六〇〇万円及びこれに対する昭和五九年二月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告市は原告に対し、金四〇万円及びこれに対する本判決言渡しの日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

原告の被告川辺に対する本件訴えを却下する。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は富山県砺波市の住民であり、被告川辺は同市の市長である。また、富山県市町村職員退職手当組合(以下「退職組合」という。)は砺波市を含む富山県内の市町村及び市町村の一部事務組合をもって組織し、当該市町村等の常勤職員に対する退職手当の支給に関する事務を共同処理している地方公共団体たる一部事務組合である。

2  被告川辺は、昭和五八年七月三一日、砺波市職員甲野太郎からの退職願いにより、同人に対し退職承認処分をした。

ついで、被告川辺は、甲野の請求により退職手当支給のため、退職組合に対し右退職の報告をし、退職組合をして甲野に退職手当として六百数十万円を支給させた。

3  右退職手当の支給は、次のとおり、違法な公金の支出である。

(一) 甲野は昭和五二年一〇月から昭和五七年一〇月まで砺波市教育委員会学務課学務係長の職にあったものであるが、その後半ごろから学校関係者等の間で、小中学校に配布する備品の納入について業者との癒着や納入品の不正取得などが取りざたされるに至った。

そこで、砺波市長の被告川辺及び同市教育長において甲野に注意を促し、昭和五七年一〇月一日甲野を市保健衛生課に配置換えした。また、同市監査委員会は同年一〇月二二日から同年一一月三〇日までの間、右教育委員会に対する定期監査を実施し、その監査結果として、(1)学校における備品の充実状況を充分に把握されるよう検討されたい、(2)教育委員会から交付される補助金が補助目的に基づいて使用されるよう指導監督されたい旨報告した。

ついで、同市教育委員会は、右定期監査の結果報告に基づき、事実調査をしたうえ、次のような事後処置をとった。(1)学校備品の納入については、昭和五八年五月一七日現在でカラーテレビ八台、ポータブルVTRカメラ一式、丸椅子二九脚が未納となっていることが判明したので、備品納入の検収を担当していた甲野にその旨を伝え、その責任において未納備品の納入を指示し、急きょ業者からこれを指定学校に納入させた。(2)補助金の目的外使用については、昭和五六年度の「特色ある学校作りの研修会」の補助金二二〇万円のうち一二万円につき、使途が明確でないことが判明したので、当時の右事務担当者の甲野にその内容を明確にするよう指示し、同人から、右補助金は同教育委員会主催のもとに開催の学校事務職員研修会の費用に流用した旨の釈明書の提出を受け、これをもって内部処理を終えた。

しかし、右調査及び事後処置は、極めて形式的で不徹底なものであった。すなわち、学校備品の納入については、その最終調査時期において、かくも多くの学校備品がなぜ未納になったのか、その理由について全く解明されておらず、また、なぜ急きょ業者に備品を納入させたのか、その処置についても多くの疑問がある。他方、補助金の目的外使用についても、その開催したとされる研修会がいつ行われたのか、その日時すら明確でなく、その支出した経費というのも不合理な数字の羅列であって、その裏付資料というべきものが全くない状態であった。

ところが、砺波市及び同市教育委員会は、右事実調査及び事後処置をもって甲野に対する容疑が解明されたものとし、所定の退職手当支給を条件に甲野より退職願いの提出を求めたうえ、前記のように昭和五八年七月三一日退職承認処分をした。

しかし、甲野は昭和五八年一一月四日砺波警察署に逮捕された。右容疑事実は、甲野が昭和五五年一〇月から昭和五七年三月までの間、砺波市内の小中学校に配分すべき、「特色ある学校作りの研修会」の補助金の一部である二四万円を騙取したというにあった。そして甲野は、右事実のほか昭和五六年四月小学校建築工事に際し業者から饗応接待を受け、また同年小学校に納入されたカラーテレビ一台を着服した旨の各事実についても取調べを受けたうえ富山地方検察庁砺波支部に送致され、昭和五八年一一月二五日右のうち詐欺事件について富山地方裁判所砺波支部に起訴された。

(二) 以上のような経緯からすれば、被告川辺は、甲野に対する退職承認処分の発令時において、同人の右非行の内容を知っていたものであって、その非行内容たるや社会的道義的にも非難されるべきものであったから、地方公務員法二九条一項を適用し、「職員の懲戒の手続及び効果に関する条例」(砺波市昭和二七年条例四八号)に基づき、甲野を懲戒免職処分に付すべきであった。

ところが、被告川辺は甲野を前記のとおり依願退職としたのであるから、右退職承認処分は手続上において瑕疵があるばかりでなく、任免権者としての裁量権の範囲を逸脱しあるいは濫用したものであって、その違法性は重大かつ明白であり、無効というべきである。

(三) このように甲野に対する退職承認処分は無効であるから、これに基づく退職組合の甲野に対する退職手当の支給も違法な公金支出である。すなわち、退職組合における退職手当の支給手続は、「富山県市町村職員退職手当組合退職手当支給規則」(同組合昭和三七年規則二号)に定められているが、まず、職員が退職組合長あての退職手当請求書を退職当時所属の市町村を経由して提出し(六条、七条)、その際、所属長は右請求書を調査し、その記載が正当であることを確認し証明したうえ、これを退職組合長に提出することになっており(一一条)、ついで退職組合長は、さらにこれを審査しその請求が正当であると認めたとき、裁定通知書を所属長を経て請求者に交付し(一二条一項)、かくて、退職手当は退職組合から直接請求者に支給されることになっている(一三条)。そして、退職組合の市町村の長は当該市町村の職員が退職したときは退職組合長に報告することになっている(三条)。甲野に対する退職手当も右のような支給手続により支給された。

ところで、右支給手続のうち、いずれの段階をもって支出負担行為、支出命令が行われたとみるかは必ずしも明確でないが、地方自治法が支出命令機関と同支出命令に基づく現金支払機関とを分立することを原則とし、また退職組合の設立趣旨が、法制上、退職手当支給額の算定及び裁定事務が錯綜を極め、専門家も容易に理解しがたい分野に属し、しかも、これが迅速かつ的確な処理が要求されるため、これを別の独立機関に取り扱わせるのが市町村の事務能率を向上させるゆえんであるとされたことによるものであることにかんがみると、退職組合の取り扱う事務範囲は、退職手当支給決定後の手続に限定されているものとみるべきである。

そうすると、退職組合が甲野に対する退職手当額を裁定し支給したのは、被告川辺が砺波市長として退職組合に対し退職手当を支給すべきことを確認し、支給すべきことを命令したからにほかならないから、被告川辺が砺波市長として甲野から提出された退職手当請求書の記載が正当であることを証明し、これを退職組合長に提出した行為は、まさに支出負担行為と支出命令そのものであって、財務会計上の行為にあたるということができ、被告川辺は地方自治法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」に該当するとみるべきである。

(四) 以上のとおり、被告川辺は、甲野に対する退職手当を違法に支出させ、退職組合に対し同額の損害を与えたものであるから、これを賠償する責任がある。

4  原告は、右退職手当の支給は違法な公金の支出であるとして、昭和五八年一一月一六日、砺波市監査委員会に対し地方自治法二四二条に基づく監査請求をした。

これについて、同監査委員会は昭和五九年一月一四日付をもって原告あてに、請求は理由がない旨を通知した。しかし原告は右監査結果に不服がある。

5  本件訴訟提起にあたって、原告は原告訴訟代理人弁護士との間で、富山県弁護士会報酬規則に基づき、手数料及び謝金として金四〇万円を支払うことを約した。

6  よって、原告は被告川辺に対し、地方自治法二四二条の二第一項四号により退職組合に代位して、右退職手当相当の損害のうち金六〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年二月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を退職組合に支払うことを求め、あわせて、被告市に対し、地方自治法二四二条の二第七項に基づき、金四〇万円及びこれに対する本件判決言渡しの日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を原告に支払うことを求める。

二  被告川辺の本案前の主張

原告の被告川辺に対する本訴請求は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、退職組合に代位して損害賠償を請求するものであるが、右代位請求訴訟は適法な住民監査請求を経た者のみが提起し得るものである。

ところで、退職組合は砺波市を含む富山県内の市町村及び市町村の一部事務組合をもって組織し、当該市町村等の常勤職員に対する退職手当の支給に関する事務を共同処理している地方公共団体たる一部事務組合である。

ところが、原告は退職組合の監査委員による住民監査請求を経ていないから、本件訴えは不適法であって却下されるべきである。

三  被告川辺の本案前の主張に対する原告の反論

被告川辺の本案前の主張のうち、退職組合が被告主張のとおりの一部事務組合であること、原告が本訴請求にあたり退職組合の監査委員による住民監査請求を経ていないことは認める。

原告は、砺波市長たる被告川辺が甲野に対して退職承認処分をしたうえ、甲野の退職手当請求書の記載を正当と証明し、これを退職組合長に提出したことが財務会計上の行為として違法であるから、これに基づき、退職組合が甲野に退職手当を支給したことも違法な公金の支出であると主張するものであって、直接に退職組合長又は退職組合の職員について違法な公金支出があったとするものではない。従って、原告が砺波市監査委員に対して監査請求をしている以上、本件訴えは適法である。本来、退職組合長は砺波市の職員である坂井に対する任免権がないから、砺波市長たる被告川辺から甲野に対する退職承認処分の報告を受けても、その適否を審査すべき権限はない。同組合長としては、甲野の砺波市における職種及び勤務時間を調査し、規則に従って退職手当を算出し、これを支給するだけである。この点について違法があれば住民監査請求ができるとしても、それ以外の事項についてはできる筋合のものではないから、退職組合に対する監査請求をする必要もなければ、その理由もない。

また、退職組合は、地方自治法に基づき設置された特別地方公共団体であり、その構成員は第一義的にはこれを構成する各地方公共団体である。これら地方公共団体の構成員たる住民は、間接的に退職組合の構成員たるにとどまる。そして、退職組合の権能も規約に規定された退職手当の支給に関する事務に限定されている。従って、砺波市の住民たる原告が、退職組合の監査委員に対して地方自治法二四二条による監査請求をすることは、理論的にも許されないことが明白である。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因第1、2項は認める。

2  請求原因第3項(一)のうち、甲野が昭和五七年九月まで砺波市教育委員会学務課学務係長の職にあったが、原告主張日時、市保健衛生課に配置換えになったこと、砺波市監査委員会が原告主張の期間砺波市教育委員会に対する定期監査を実施し、原告主張のような報告をしたこと、その後、同教育委員会が事実調査をしたこと、被告川辺が昭和五八年七月三一日坂井に対し退職承認処分をしたこと、甲野が原告主張のとおり逮捕、取調べを受け、検察庁に送致されて起訴されたことは認めるが、その余は否認する。

同項(二)のうち、被告川辺が甲野に対する退職承認処分の発令時において、同人の非行の内容を知っていたことは否認し、その余は争う。

同項(三)のうち、退職組合における退職手当の支給手続規定は認めるが、その余は争う。

同項(四)は争う。

(一) 被告川辺の甲野に対する退職承認処分は行政処分であるから、仮にその処分に違法な点があったとしても、それが取り消されることなく外形上有効なものとして存在する限り、何人もこれを有効なものとしてとり扱わざるを得ない(いわゆる行政処分の公定力)。

しかも、被告川辺の右退職承認処分は次のとおりなんら瑕疵がない。

甲野は昭和五七年九月まで砺波市教育委員会学務課学務係長の職にあったが、砺波市教育委員会は、原告主張の定期監査結果報告を踏まえ、甲野から事情聴取したところ、(1)砺波市から校長会に寄付された「特色ある学校作りの研修会」補助金については、学校事務職員及び学務課職員の合同による「特色ある学校作りの取組みについて」を議題とした一泊研修の費用として、校長会の許可を得て使用した、(2)備品については、予算の範囲でその都度一括して購入し、必要に応じて学校に配分している、とのことであった。そして、備品納入状況については、これを実地調査した結果、台帳には記載漏れのものがあったものの、備品の存在自体は確認され、また補助金については、学校事務職員及び学務課職員の一泊研修の費用として使用されている事実が確認されたので、補助金の趣旨に反するものではないとの結論に達した。

そこで、市教育委員会は、右調査結果を市監査委員会に報告するとともに、市長部局総務課長にも報告した。同総務課長は、右調査結果に基づき、甲野に対し市教育委員会在職当時の事務処理上の不適切について注意した。

その後、甲野は昭和五八年七月一五日退職願いを提出したため、被告川辺は任免権者として退職承認処分をした。ところが、甲野はその三か月後の同年一一月四日突然詐欺容疑で逮捕されるに至った。

以上のとおりであるから、被告川辺が砺波市長として甲野に対し退職承認処分をした際、甲野に懲戒免職処分に値するような不正行為があったことは確認されていなかったのであるから、同人の退職願いに対する退職承認処分は当然であって、なんら瑕疵は存しない。

(二) また、退職組合は原告主張のとおり構成員たる市町村の常勤の職員に対する退職手当の支給に関する事務を共同処理するものであって、退職手当の支給を受ける者の範囲及び退職手当の額については組合議会の制定する条例によるべきものとしている(富山県市町村職員退職手当組合規約一二条、一三条)。そして、これを受けて退職組合議会の制定した「富山県市町村職員退職手当組合退職手当条例」が退職手当の実体的要件を規定している。

右関連規定を総合すれば、退職組合が共同処理する事務は、退職手当を支給するか否かの判断を含む、支給に関する一切の事務であることが明らかである。換言すれば、退職組合の構成員たる市町村は、組合加入により、職員に対する退職手当支給に関する一切の権限を喪失しているのである(地方自治法二八四条一、二項)。従って、本件において砺波市長たる被告川辺が退職手当支給に関する支出決定(債務負担行為)及び支出命令をする余地は全くない。被告川辺がなした、甲野の退職手当請求の証明は単なる事実の証明にすぎないし、同証明書の退職組合長に対する提出も単なる経由手続上の措置にすぎないものであって、これらをもって支出決定ないし支出命令と解する余地はない。

他方、退職組合長は、退職手当の請求(この請求は、所属長を経由するとはいえ、あくまで退職した職員自身が行うものである。)を受けたときはこれを審査し、その請求が正当と認めたときは裁定通知書を請求者に交付することになっている(富山県市町村職員退職手当組合退職手当支給規則一二条一項)から、退職組合長の右裁定通知書の交付が支出決定であり、同時に同組合長が支出命令を発しているものである。

(三) さらに、砺波市は、地方自治法一五三条の規定に基づき、退職手当に関する事務を総務課長に委任している(砺波市職員職務執行規則四条、別表第一、二二条別表第三)。従って被告川辺の名義でなされた甲野の退職手当請求書の証明及び退職組合長に対する提出行為も総務課長の専決により処理されたものである。

およそ公法上の委任においては、委任によって委任庁の権限が失われ、受任庁のみがその権限を行使することになるのであるから、被告川辺は地方自治法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」に該当せず、損害賠償責任を問われる余地はない。

3  請求原因第4項は認める。

4  請求原因第5項は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  被告川辺に対する請求について

被告川辺は、原告の被告川辺に対する本件訴えは、退職組合の監査請求を経ていないから不適法である旨主張するので、この点につき判断する。

退職組合が砺波市を含む富山県内の市町村及び市町村の一部事務組合をもって組織し、当該市町村等の常勤職員に対する退職手当の支給に関する事務を共同処理している地方公共団体たる一部事務組合であること、原告が本訴請求にあたって退職組合の監査委員による住民監査請求を経ていないことはいずれも当事者間に争いがなく、また、原告の被告川辺に対する本件訴えが地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき退職組合に代位して損害賠償を請求するものであることは明らかである。

ところで、退職組合のような一部事務組合(特別地方公共団体)については、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除く外、普通地方公共団体に関する規定が準用されることは地方自治法二九二条の明定するところであるが、かかる一部事務組合につき、同法二四二条所定の監査請求を準用しない旨の特別規定は、すべての法律又は政令中にも存在しない。

そうすると、原告の本訴請求が被告川辺の坂井に対する退職承認処分の無効を前提とし、これに基づき、退職組合の甲野に対する退職手当の支給が違法である旨主張している以上、退職組合の監査委員による監査請求を経ることを要するものというべきである。

原告は、砺波市長たる被告川辺が、甲野の退職承認処分が無効であるのに、その退職手当請求書の記載を正当と証明し、これを退職組合長に提出したことが財務会計上の行為として違法である旨主張しているのであるから、退職組合に監査請求をする理由はなく、原告が砺波市監査委員の監査請求を経ている以上、本件訴えは適法である旨主張する。

しかし、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

退職組合は、前記のように砺波市を含む富山県内の市町村等の常勤職員に対する退職手当の支給に関する事務を共同処理するため、昭和三七年一二月一日施行の富山県市町村職員退職手当組合規約(昭和三七年規約第一号)に基づき設けられた地方自治法二八四条所定の一部事務組合で、同規約を受けて富山県市町村職員退職手当組合退職手当条例(昭和三七年条例第一号)が退職手当を受ける者の範囲及び退職手当額等の実体的要件を規定し、さらに右退職手当の支給手続として富山県市町村職員退職手当組合退職手当支給規則(昭和三七年規則第二号)を設けている。

右規則によると、退職組合を組織する市町村等の職員が退職し退職手当を請求するには、所定の退職手当請求書を退職当時所属の市町村等の長(所属長)を経由して退職組合長に提出し(六条、七条)、所属長が退職手当の請求書を受理したときは、これを調査し、その記載の正当であることを確認のうえ証明し、すみやかに退職組合長に提出しなければならない(一一条)とされているけれども、他方、退職組合長は、退職手当の請求を受けたとき、これを審査し、その請求が正当であると認めたときは裁定通知書を所属長を経て請求者に交付し、同組合長において、退職手当の請求書に不備があるとき、又は給付を受ける権利がないと認めたときは、その理由を付して所属長を経て請求者に通知しなければならない(一二条)とされ、また退職手当の裁定通知書は退職時の所属長を経て請求者に、給付金は退職組合から直接請求者に請求のあった翌月末日までに支給する(一三条)とされている。

甲野に対する退職手当も右支給手続により支給された。

以上の事実によれば、退職組合甲野のに対する退職手当の支給は、退職組合長においてこれを審査し、理由があると認めて裁定し、これを支給したことが明らかであるから、原告主張のように被告川辺の退職手当請求書の記載証明と退職組合長に対する右提出行為をもって、財務会計上の行為というのはあたらない。

よって、原告の右主張は採用できない。

次に原告は、退職組合の構成員は地方公共団体であって、その住民は間接的な構成員にとどまるのみならず、退職組合は退職手当の支給に関する事務に限定されるから、砺波市の住民たる原告が退職組合の監査請求をすることは許されない旨主張する。

しかし、地方自治法二九二条は一部事務組合について普通地方公共団体に関する規定を準用していることは前記のとおりであるうえ、《証拠省略》によると、退職組合は、退職手当の支給に関する事務を共同処理するため、その経費を退職組合を組織する地方公共団体に分担させ(前記規約一四条、一五条)、監査委員も設置されている(同規約一一条)ことが認められるから、その財務会計上の行為について、右地方公共団体等の住民の一般的利益を保護するため、住民監査請求ないし住民訴訟を認めるのが相当である。たしかに、原告は砺波市の住民で退職組合の間接的な構成員にとどまるけれども、退職組合の事務範囲内において役務の提供を受けるとともに経費を負担する関係に立ち、間接的とはいえ退職組合の自治権に服しているものというべきであるから、これをもって住民監査請求を否定することはあたらない。

よって、原告の右主張もまた採用できない。

以上のとおりで、原告の被告川辺に対する本件訴えは退職組合の監査請求を経ていないのであるから不適法であって却下を免れない。

二  被告市に対する請求について

被告市に対する本件訴えは、被告川辺に対する訴えが認容されることを前提条件とするものであるが、前記のとおり、被告川辺に対する本件訴えが不適法で却下されるべきであるから、被告市に対する本件訴えもまた不適法として却下すべきである。

三  結論

以上の次第で、原告の本件訴えをいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田清 裁判官 菊地健治 林正宏)

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